建設機械産業を知る
トンネル建設工事に使用される機械のうち、都市の土砂層を掘削対象とするものをシールドと呼びます。川底や海底など特殊な地盤条件に対する掘削技術として考案されたのが始まりです。機械の推進方法や排土方法により、数多くの種類があります。現在は地下鉄、道路、地下河川、上下水道、電力線、通信地下工事などの都市トンネルの築造に最も有効な工法として活用されています。一方、山岳トンネルの岩盤を対象とする機械をトンネルボーリングマシン(TBM)と呼びますが、土砂層と岩盤層に対応するために両者の特徴を合わせた機械もあり、区別がつきにくくなっています。
初期の段階では、圧気工法を併用した手掘り式が主流でした。その後、半機械掘り式、機械掘り式といった開放型の工法を経て、ここ20年ほどで土圧式、泥水式などの密閉型がシールド工法のほとんどを占めています。
密閉型の開発は、地下の工事を安全に進めるため、1960年代後半に採用された泥水式から始まります。1970年代半ばには土圧式が登場しました。その後の約10年間で、注入材の改良や同時注入方法の開発、IT技術の導入などが進展。シールド機種はこれまでの開放型から周辺環境への影響が少ない密閉型へと大きく変わり、1980年代半ばには今日の密閉型シールド工法の基盤が完成しました。
この時期には都市部の急激なインフラ整備の需要を追い風として、シールド工法自体が今日の隆盛に結実。これに伴い、新たなシールド技術の多様化を促しました。
シールドの最大の特徴は発進立坑さえ掘れば、モグラのように進むため、地表面にはほとんど影響を及ぼすことなく、工事を進められることです。特に日本製シールドの技術水準は長年、世界のトップクラスを維持。また、関連機器メーカと一体となり、長距離用、礫用など、用途に応じた多彩なカッタビットを開発・提供してきた部品メーカの果たしてきた役割は小さくありません。
さらに、大口径の工事に対応できることも特徴の一つです。初期のニーズは下水道関係が多かったものの、技術の発達で大口径化が可能となり、地下河川や道路などにも多く使われるようになりました。例えば東京外環自動車道路工事では、直径16m超の大断面泥水シールドが活躍しました。
複雑な地質に対応できる点も高く評価されています。特に軟弱な地質を克服するために開発されたさまざまな技術が、日本製シールドの品質向上に大きく貢献しています。
開放型機械掘り式
シールドの断面全体を回転式のカッタヘッドで掘削。切羽が安定した所では、掘削速度が速く、工期の短縮や、人員節減を図ることができます。掘削した土砂はベルトコンベヤなどで排出します。
ブラインド式
手掘り式の前面に開口部を持つバルクヘッド(隔壁)を設け、シールド機をジャッキで押し進めるだけで土砂を排出する仕組みです。ところてんの原理を応用した排土方法で、ごく軟らかい土質の工事に適しています。
土圧式
密閉型シールド掘進機で、切羽とバルクヘッドとの間(カッタチャンバ)に掘削土砂を充満させて切羽を安定させる仕組みです。排土はスクリュコンベヤなどを用いて行います。
泥水式
密閉型シールド推進機で、掘削土砂は地上から送られる泥水と攪拌し、スラリ(泥水)状にしてパイプ輸送し、地上で土と水に分離。水は再利用します。川底や海底など水圧の高い所での使用に適しています。
現在開発が行われている主なものには、①非開削での地中切り広げ・分岐・合流技術、②小土被りの発進・掘削技術があります。①は長距離の道路や鉄道トンネル向けに必要な技術であり、②は交差点や踏切での地中立体交差建設に必要なものです。掘進機の再利用を行う回収シールドも実用化されており、時代の要請に応えた技術といえます。
また、多くの建設機械と同様、シールドにも自動化、情報化技術が導入されており、今後一段と自動化が進むと予想されます。
さらに、個人の権利が及ばず用地問題が少ない大深度地下工事の増加、人口が多くかつインフラ整備が遅れている地域からの引き合いの増加が見込まれています。すでに東南アジアからは地下鉄敷設に関する問い合わせが数多く寄せられ、海外でのさらなる活躍が期待されています。
川崎重工業、コマツ