建設機械産業を知る
油圧ショベルとは掘削機械の一種で、掘る・運ぶ・吊るといった作業を1台で行うことのできる万能機です。さらにアタッチメントを交換すれば多様な作業がこなせるという点で、建設機械の代表格となっています。日本の建機業界の中でも、目覚ましく発達した機械の一つで、当初はバケット容量が0.3~0.4m3および0.6~0.8m3級の中小型機を中心に発達しました。また、大規模な土木工事の効率化に合わせた超大型機から、都市土木や農業など幅広い用途で使用される小型機(ミニショベル)まで、用途と種類は多岐にわたります。
油圧ショベルはもともと海外からの技術導入によってもたらされたもので、国産機の第1号は1961(昭和36)年、新三菱重工業(現・キャタピラー)がフランスのシカム社の技術導入により開発したユンボY35です。1965(昭和40)年、日立製作所(現・日立建機)は海外からの技術導入に頼らない純国産機UH03油圧ショベルを発売しました。その前後から各社が海外と技術提携をして市場が活性化し、技術レベルが向上しました。現在では日本の油圧ショベルは世界で最も活躍している建設機械となっています。
油圧ショベルが大きく発展した理由として、容易性・汎用性の追求が挙げられます。
輸送と自走での機動性
小型軽量で施工現場までの運搬が容易。また、左右独立走行が可能なので、自走による狭い現場での移動と方向転換がスムーズです。
シンプルな構造
動力伝達系統が油圧配管だけで済むので、構造を簡素にでき、点検整備が容易です。
操作が容易
基本的に作業用レバー2本と走行用レバー2本だけで運転ができます。
正確な作業
先端アタッチメントの前後首振りができ、掘削位置、掘削力を集中させる場所を正確に決められるので、施工時に必要な各種の作業が精度よく容易にできます。
多機能性
アタッチメントが容易に交換できるので、各種アプリケーションに対応。整地、運搬、積込み、掘削と、さまざまな作業が可能なことが、日本の地質の特性にも適合しています。また、ホイールローダ、ブルドーザなどの水平型掘削機に比べて、垂直掘削ができ、かつ自由度が高いことも特徴です。
主に整地、運搬、積込み、掘削作業ですが、アタッチメントなどの交換によりさまざまな用途への対応が可能です。スクラップ処理、林業、砕石、鉱山、道路整備・管理、ブロック運搬、草刈りなど、用途は多岐にわたります。また、災害時の人命救助や復旧・復興事業に大きく貢献しています。
昭和40年代後半に、埋戻し作業が容易なブレードと壁際を掘削できるブームスライド機構を持った機械が登場しました。
さらに全旋回式とブームスイング機構を備えた機種が開発され、現在のミニショベルの原型が生まれました。1983(昭和58)年、いわゆる超小旋回機の出現により車両幅内での作業が可能となり、都市型土木に大きく貢献。また、1993(平成5)年には超小旋回機と標準機の長所を完備した後方超小旋回機が販売され、脚光を浴びました。
土木工事や砕石関係ではホイールローダが、住宅工事・管工事は人力で、建物解体・スクラップ処理ではクレーンが現在の油圧ショベルの役割を担っていました。
さらに古くは鋤・鍬・シャベル・もっこなどと牛馬・人力による作業、1800年代は動力源に蒸気機関を利用した機械式トラクタやショベル、1930年以降はディーゼルエンジン搭載の機械式トラクタやショベルなどで、現在油圧ショベルが担っている作業を行っていました。
操作の容易化
当初、油圧ショベルは熟練オペレータしか操ることができませんでしたが、誰でも簡単に操作ができるよう、パイロット操作系の「油圧化」が図られました。また、昔のショベルはアクチュエータごとに作業機レバーがありましたが、誰もが操作できるようレバーを2本に減らすなどの工夫がなされました。
作業性能向上への要求
エンジン出力を最大限に油圧ポンプに伝達するべく、エンジンと油圧ポンプ制御のエレクトロニクス化が図られました。
超小旋回機能への期待
都市部の工事が増えたことによりニーズが高まりました。1980年代後半に第一世代が販売され重宝されましたが、第二世代ではコンピュータを搭載することにより第一世代の問題点を解決、超小旋回機が油圧ショベルの中で地位を獲得しました。
電子制御
コントローラの搭載で電子制御が可能となり、エンジンと油圧ポンプを制御することで馬力を効率的に使用できるようになりました。
デザイン面での進歩
デザイナによる外観デザインが施されるようになったことも技術革新の一つです。
エンジン、油圧機器の小型化、効率化、複数の機能・装置の一体化・集約化技術が鍵です。例えば、燃料タンクと作動油タンクの一体化、油圧ポンプの一ポンプ化です。
小旋回化技術も小型化に寄与しています。小旋回を実現するために平行リンク式オフセットブームを採用したことによりブーム取り付け位置を運転席横に配置、主要コンポを限られた場所に配置、ラウンドタイプのキャブの開発(スライドドアの採用)、フロントの車幅内寸法への折り畳みと側溝掘り作業を可能にするなどの工夫が施されました。
ミニショベルにおいては、ミニ用可変油圧ポンプ、軽量小型エンジンの採用により小型化を実現しました。
騒音の発生源であるエンジンと冷却装置を囲い込み、騒音が外部に漏れないように配慮しています。エンジンについてはゴムマウントによる制振化も施されています。
油圧ポンプから発生する高音ノイズの除去も図られています。その他、ボディ剛性の向上、高性能マフラ採用、ポンプでは油圧脈動の低減、カバーや吸気・排気ダクトなどによる吸音遮音、フロントアタッチメントのガタ低減や走行音の低減、キャブ剛性アップ、内張り、防振マウントなどによるキャブ内騒音の低減、低騒音作業モードの設定などのさまざまな対策が講じられています。
環境への対応
主要な三要素は、燃費・CO 2の排出抑制・騒音の抑制です。低燃費への取り組みと同時に代替燃料の開発も進められています。排出ガス規制に関しては2006(平成18)年、2011(平成23)年、2014(平成26)年の排出ガス規制に対応するよう、該当機種のモデルチェンジを次々と行ってきました。電気ショベルや、ハイブリッドショベルの開発ではコストが課題です。 騒音に関しては建設省(現・国土交通省)が1983(昭和58)年に制定した低騒音型建設機械指定制度、1989(昭和64)年に制定した超低騒音型建設機械指定制度、また、振動に関しても建設省が 1996(平成8)年に制定した低振動型建設機械指定制度に対応してきましたが、今後一層の技術開発が求められます。
多機能化への対応
電子制御化・自動化・ロボット化・インテリジェント化・フロント多関節化など自由度追加による多機能化を図っています。その背景には熟練オペレータの不足、高齢化、女性オペレータの増加などがあり、オペレーションの操作性、安全性向上のニーズがより高まっているからです。操作性向上の対応としては、今後さらにIT化を進めることが期待されています。現在でも、オペレータの望む作業モード設定、室内モニタに稼働中の異常や故障原因診断などを表示するなどの機能を装備しているものがあります。施工関係情報を液晶モニタで表示できるIT機能を装備したものも登場しています。
ICT建機のさらなる革新
建設業の抱えるさまざまな問題を解決し建設現場の生産性・安全性向上に取り組むための更なるICT土工が進むと考えられます。
5GやAIを活用した建機
次世代通信規格「5G」による建設機械の遠隔操作や、人工知能(AI)などを活用した無人で自律稼働する建設機械などの開発が進んでいくと考えられます。
新興国への進出
日欧米市場は成熟しているため、今後はBRICsに続き、新たな新興国で油圧ショベルの需要をつくり出していくことが重要となります。そのためにも、新興国にマッチした仕様・価格の油圧ショベルを開発生産していくことが今後の課題となります。
安全性の向上
機械による挟まれ・引かれや機械の転倒・転落事故を防止する安全装置を装備した機械の普及が今後進むと考えられます。
サービス性の向上
画期的な省エネ、低コスト化、メンテナンスフリー化などのほか、壊れない機械、居住性向上、開発効率向上、生産システムの効率向上、そして情報化施工などが、今後の油圧ショベルの展望を占うキーワードになります。
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